またまた昔の話。デジタルレコーディングもMIDIもなかった頃、経験の浅い演奏者にとって録音の仕事は正に針のむしろ。キャバレーやライブハウスでの演奏とは全く異なる能力が要求される。金魚鉢(コントロールルーム)から聞こえてくるアレンジャーや録音技師の声。スネアドラムの調整に余念のないドラマー。プレッシャーで弾けるものも弾けない。ヘッドホーンから来る耳をつんざくドンカマ(リズムマシーン)の音。ボロボロになっても誰もやさしい言葉などかけてはくれない。後悔先に立たず。でもレコーディングの現場には優れた音楽家(ジャンルを問わず)が数多くやってくる。トンチンカンな質問や相談をしても親身になって聞いてアドバイスしてくれる。テクノロジーで代用のきくスタジオミュージシャンなんてもはや過去の遺物に違いない。でも自分を殺して音楽を表現できるスキルも演奏家の大切な個性だと思うのだが。室内楽の弾けないピアニストにはなりたくないものだ。